鈴木志保 「船を建てる」 上巻 (秋田書店)

長く待ち望んでいた復刊。1992年から1996年まで、今はなきぶ〜けに連載された作品で、アメリカに暮らすアシカたちを描く連作短編集。今回の復刊では、集英社版のA5版全6巻を、各巻約400PのB6版上下巻にまとめています。今月発売された上巻は、旧版の1巻から3巻までの27話を収録。下巻は来月発売とのこと。
改めて読み直してみても傑作だなあ。キュートにデフォルメされた動物たちの他愛ない生活を通して、喪失の悲しみ、死、そして再生というテーマを浮かび上がらせる筆致。漫画の表現技法においても、楠本まきの「致死量ドーリス」と並ぶ90年代の金字塔と言えるでしょう。
鈴木志保の10年以上前のこの仕事が、現在でも全く古びていないのは改めて偉業だと思いますが、それは同時にフォロワーらしいフォロワーが芽吹いてこなかったということでもあります。こういった先鋭的な表現がますます商業ベースに乗りづらくなっている漫画界の現状は、やはりちょっと寂しいなあ。