霧恵マサノブ 「海神」 (ヒット出版)

新人育成に熱心で、コンスタントに新進エロ漫画家を輩出し続けている阿口云 (阿呍) の中でも、個人的には数年に一度の逸材ではないかと思っている霧恵マサノブの初単行本。とある猛暑の夏の日に、貧乏大学生正宗のアパートの、風呂桶の水から突如出現したスクール水着の少女、レビアたん (Leviathan: リヴァイアサン)。どうやら神様の類いらしいレビアたんと正宗を中心として、周囲の様々な人間を描いていく連作短編集です。
最大の魅力は、エロ漫画らしからぬ読ませるストーリー。すこし・ふしぎ系のSFガジェットや明るいギャグもふんだんに入っていますが、骨子となるテーマは純文学よりです。阿口云掲載時からその構成力と巧みなストーリーテリングには目を見張っていましたが、単行本になってから読むと、話数をまたいで張り巡らされていた数々の伏線に改めて驚かされます。
反面、エロ漫画として見ると実用性はイマイチかも。けしてエロが薄いわけではないのですが、流行りのエロ向きな絵柄ではありませんし、なによりエロ漫画として読む前にストーリーの方に引きずり込まれてしまう感じ。立ち位置は粟岳高弘あたりと近いかもしれません。
エロ漫画と思わずに読むならガツンと読み応えのある本で、最近活きのいい新人の漫画を読んでないなあと思っているそこのあなたにオススメです。阿口云誌上では「海神」シリーズの短編がまだ続いているので、順調に行けば続刊もそう遠くないでしょう。